このコーナーでは、長年海外で お子さんを育ててこられた方にご 登場いただき、これまでのご苦労 や貴重な体験談をうかがいます。 皆さんも「海外で子どもを育てるヒント」を見つけてみませんか。
Q. シンガポールに長く滞在され、日本語補習授業校の校長も歴任されました。今、振り返られていかがですか。
今から23年前(1995年)に夫の赴任のため、10歳の長男、 2歳の長女を連れて日本からシンガポールに来ました。当 時情報収集といえば、書店に行ってシンガポールに関する雑誌や本を探すぐらいしかできませんので不安はありましたが「きっとどうにかなる」という気持ちでした。
長年日本で教職に携わっており「教える楽しさ」を知っていたため、来星して間もなく日本語補習授業校(以下 補習校)の教員になり2年目には校長を務めました。予定外にシンガポールで子育てと仕事を両立することになっ たのです。当時は開校間もないということもあり、カリキュラムを始め学校組織が確立する過渡期でもありました。補習校の草創期を築き上げたという大きな責任と共にやりがいも感じていました。
補習校では中学生になると平日に通う学校の勉強も忙しくなり、日本語学習を続けるには大変な努力を要します。クラスでの一体感もまばらだったので、どうすれば意欲的に日本語を学んでくれるか試行錯誤しました。そして、学習発表会で生徒自作の劇を発表することにしたのです。脚本から 全てを手がけたことで仲間と団結し、自分の居場所が確立された生徒たちは日本語への学習意欲もぐんぐん伸びていきました。生徒たちの成長を目の当たりにできたことは、子育て中の親としても多くの学びがありました。
Q. 滞在期間が当初の予定と変わっていく中で、お子さまの進学先はどのように検討されましたか。
母語を大切にしたいという思いがあり、子どもたちには小学校は日本人学校を選びました。学校で日本語に浸っている分、長男は水泳、長女はバイオリンとバレエのお稽古ごと全てを現地の先生に英語で習いました。現地のお子さまやお母さま方との交流を楽しむことができた、正に現地ならではの貴重な体験でした。
数年という滞在予定が、気がつけばかなり延びていました。長男は日本人学校小学部、中学部を経て高校は好きな水泳に打ち込めるオーストラリアのシドニーにあるノックス・グラマースクールに単身留学をしました。英語は会話程度のレベルでしたが、当時祖父母が住んでいたことが背中を押しました。高校から現地校へ進学したため、授業もわからず大変苦労したようです。大学は日本に帰国して関西の大学に進学して、今はメーカーで海外関係の仕事をしています。
長女はローカルの幼稚園から日本人小学校に入り、5 年生からシンガポール・アメリカンスクール(SAS)に転校しました。学校生活にはすぐに馴染みましたが、勉強では日本での中学受験も考慮して塾にも通っていたため、かなり大変でした。日本に帰国後は、慶応義塾湘南藤沢中・高等部から慶応義塾大学経済学部に進学し、在学中はフランスのパリ政治学院とのダブル ディグリープログラムに2年間参加することが出来ました。現在は希望だった広告業界に就職しています。
滞在期間中には、子どもたちの教育で多くの迷いと決断に直面しました。その都度感じたことは、子どもには大人が感じている以上に「適応力がある」ということです。親はしっかり見守りながら支えてあげることが何よりも大切です。子どもたちにとっては苦労が多かった分、それら全てが財産になっているようで、「あの経験があって本当に良かった」と言っています。
Q.?お母さまとしてお子さまをどのように支えましたか。
娘が幼稚園の夏休み、一時期別のインターの園に通っていました。本人は「大丈夫」と言うのですが、大好きだったお絵かきで黒い色しか使 わなくなったのです。「これはおかしい」と感じ、すぐに担任の先生やカウンセラーの先生に相談をしたところ、クラスマザーとして、さりげ なく側に寄り添うことをすすめられました。授業のお手伝いなど間近で様子を見ることで、娘も安心することができたようで、活き活きとした表情になっていきました。
焦って親が前に出過ぎれば子どもも不安に感じたかもしれません。子どもは「お母さんが見てくれている」「分かってくれている」と思えるだけで安定するものです。焦らず見守り、必要なときだけ後ろからサ ポートすることが大事だと思いました。
Q. 海外で暮らすご家族やこれから赴任されるご家族へメッセージ をお願いします。
これまで海外で生活する多くのご家族との出会いがありました。皆さんのお話に共通すること、それは「お母さまが不安だとお子さまも不 安に感じている」、「お母さま自身がhappyだとお子さまもご主人も happyになる」ということです。海外生活では、お母さまご自身も、ぜひご自分なりの楽しみを見つけてください。お母さまがその国の生活 を楽しみながらお子さまをサポートしていれば、お子さまもきっと現 地での生活を満喫できることでしょう。お子さまが苦労した経験は必ず後で「良かった」と、言える時がきます。とにかく「焦らずに」自信を もって支えてあげることが肝要だとお伝えしたいです。
高橋さんから一言 |