日本メディカルケアー ジョアナ リム医師
おたふく風邪について教えて下さい
流行性耳下腺炎(通称:おたふく風邪、ムンプス)とは、人のみが感染するウィルス感染症です。唾液腺(特に耳下腺)への感染が一般的に知られていますが、他の器官へも感染します。
シンガポールでの流行・発症について
? 2012年のシンガポールの報告件数は、おたふく風邪521件、風疹64件、麻疹38件でした。どれもシンガポールでの定期予防接種に含まれていますが、おたふく風邪の報告件数は風疹と麻疹の合計の5倍にのぼりました。
どのように感染するか
? おたふく風邪は、感染した人の咳やくしゃみ、会話中に飛ぶ口、鼻、喉からの唾液や粘液を介して広がります。呼吸器からの粘液がシーツ、枕、衣類などに付着し、それに触れた手から口を介して感染することも稀にあります。ウィルスの潜伏期間は約14 ~18日間です。唾液腺(耳下腺)の腫れが始まってから5日間の感染力が最も強いため、周囲に感染が広がらないよう注意をする必要があります。
子どもと大人の症状の違い
子どもは通常は軽い症状ですが、大人は重症化や合併症を起こすことがあります。感染初期は、低い発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、食欲不振など特徴の少ない初期症状があります。最も知られたおたふく風邪の兆候は、耳の後ろの耳下腺の圧痛を伴う腫脹(しゅちょう)です。
診断方法と合併症
? 主に診察で診断しますが、血液検査でも確定診断を行うことができます。多く見られる合併症は炎症と腫脹によるもので、もっとも深刻なものは、髄膜炎、脳炎、難聴、睾丸炎です。この4つの合併症は、特徴的な耳下腺の症状が無くおこることがあります。
1. 髄膜炎(脳や脊髄の周りの髄液の感染): 予防接種が導入される前は、感染の約10%にウィルス性髄膜炎が報告されていましたが、現在は稀です。一般的に後遺症を起こすことなく完治します。
?2. 脳炎(脳質の感染):1960年代には、ウィルス性脳炎の主な原因はおたふく風邪でした。しかし予防接種の導入により、発症は0.5%に低下しました。ほとんどの罹患者は後遺症も無く回復しています。
?3. 難聴:予防接種の導入以前には、難聴は稀ではなく、おたふく風邪感染の2万件中1件という割合で起こりました。両側の耳の場合もありますが、多くは片側に見られます。
4. 睾丸炎(睾丸の感染):思春期以降の男性が感染した際に多く見られる合併症で、約10%に片側の睾丸に入院治療を必要とするような激痛が出現します。約半数の睾丸炎の罹患者は睾丸萎縮を、また生殖障害を起こすこともありますが、不妊となることは稀です。
その他の合併症
?1. 卵巣炎: 思春期以降の女性の卵巣(卵巣炎)、および・または乳腺(乳腺炎)の炎症。生殖への影響は稀です。
?2. 流 産: 妊娠3 ヶ月までの妊娠初期に自然流産が起こりやすいという研究が報告されています。
治療方法
? おたふく風邪はウィルス感染のため、抗生物質は有効ではなく、ウィルス自体に有効な治療法はありません。年齢に関係なく主な治療は、症状を緩和するための対症療法です。多くの患者は約2週間で合併症を起こさず自然に回復します。
〈苦痛を和らげ、周囲への感染を防ぐ方法〉 ※不明な点は医師にご相談ください
- 熱が下がるまで安静にする
- 鎮痛剤(アセトアミノフェン、イブプロフェン)を服用し、症状を緩和する
- 感染した唾液腺の痛みと腫脹を和らげるため、暖かいまたは冷たい圧定 布をあてる
- 睾丸の痛みを緩和するため、スポーツ用サポーターを着用する
- 酸味のある食べ物(唾液の分泌を促す柑橘系の果実やジュース)を避ける
予防接種
? 初期には単独ワクチンが主でしたが、1971年に三種類混合のMMR(麻疹・おたふく風邪・風疹)ワクチンが導入されました。日本では単独ワクチンを使用しますが、シンガポールの医療機関では単独の予防接種は使用していません。現在のMMRは接種方法により約80%(45% ~ 90%の幅)の人に免疫力をつける効果があります。
? 保健省(MOH)が推奨するMMRの接種法は、生後12 ヶ月に1回目、15~18 ヶ月に2回目の接種(2011年12月1日より実施)です。流行期には、初回の接種から28日以後に追加接種をする場合もあります。
副作用について
? 注射部位の痛みや赤み、発熱、発疹などで、最初の接種後5日から12日後に現れます。頚部などの局部リンパ節の腫れや圧痛が生じる場合もあります。非常に稀なケースとして、上記以外の深刻な副作用を起こす場合もあります。既往歴等によってはMMRの予防接種を受けることのできない人もいますので、必ず医師に相談しましょう。
感染後について
? おたふく風邪は概して生涯の抗体を作る、自然治癒性の疾患です。重篤な合併症を起こすのは比較的稀で、知られている合併症は前述したものです。抗体の無い妊婦が妊娠初期に感染すると流産の確率が上がりますが、胎児への先天性異常のリスクは高くありません。
おたふく風邪は予防可能な疾患ですので、ぜひ予防接種を受けてください。