今年1月に東京大学が9月入学の意向を発表しました。それ以来、マスコミでは連日のように論議が醸し出されています。 日本の大学の国際化という視点からこの問題を考えてみましょう。
前回は「グローバル化の意味」と「世界における日本の大学の現状」について説明しました。
英語が出来ない日本人
前出の東大の参考資料には「70%の学生が外国語でコミュニケートする能力が不十分だと回答した」と書かれています。
この20 年間ほどで日本では英語教育の重要性が叫ばれ、各中学・高等学校は授業時間を増やしたりネイティブ教員を多く採用したりして工夫をしているようですが、その成果は思わしくありません。TOEFL 受験者のスコアを見ても日本はいまだにアジアで最下位グループに属しています。
既に始まっている世界の大学の国際化
グローバル化の潮流の中で世界の様々な地域で大学の国際化・共通化は既に始まっています。EU では1999 年に20 ヶ国の教育担当大臣が集まり「ボローニャ宣言」を採択。国ごとに異なる大学教育の垣根を取り払い、単位や成績の基準の共通化を推進し、学生や教員の移動を促進する。ヨーロッパ高等教育圏を謳い、留学生を増やし、域内の学生を自由に移動させる。こうすることで競争力を高めようと考えています。この動きをヨーロッパ最古の大学の名前を冠してボローニャプロセスといっています。現在加盟国は46 ヶ国に増えています。加えて共通語としての英語の急激な拡大に対応して、教授言語として英語を採用する大学・コースを積極的に増やしています。
アジアの大学もなかなか積極的です。お隣韓国では延世大学(※1)を始め、授業を英語で行い留学生を積極的に獲得している大学が増えてきました。1997 年のアジア通貨危機で韓国政府が財政破綻寸前になったことがきっかけで、経済政策だけでなく教育も国際化を図り、国民には英語教育を奨励しました。こうした大学がSAMSUNG、LG 等の韓国系企業のグローバル人材供給源になっているのは言うまでもありません。
従来から英語による授業を行っている、シンガポールのNUS、香港の香港大学、中文大学等も留学生には人気です。台湾の大学もここ数年急速に国際化が進んでいます。
(※1) 延世大学 韓国トップレベルの私立大学。しばしば日本の慶応大学と並び称される。
日本の大学の国際化への課題
大学が9 月入学にすることは学期を世界の大勢にあわせることで学生の移動を容易にし、「世界に扉が開かれる」「日本の大学の国際化を推進するひとつの契機」にはなりますが、同時に日本の大学が激しい国際競争の渦中に入ることを意味します。しかし、日本では一部の大学を除いて東京大学の状況のように国際化の試みは遅れがちで、未だ鎖国的状況です。次の課題を達成することが必須になります。
1:在籍学生・教員が多民族・多国籍であること。
様々な価値観をもった学生同士が切磋琢磨する環境で、大学の中で世界を知ることができます。当然彼らの多くは卒業後、グローバルなネットワークをつくり大きなアドバンテージになることは言うまでもありません。研究も複眼的視点から行われ、多様性のある教育が実施できます。学生にとっても様々な文化背景をもった教員と交流を持てる環境が整備されます。
2:学生・教員の国際的な移動を促進するような、制度・単位・評価基準の共通性を有していること。
・交換留学や転学・2大学のダブルディグリー等
・IB(国際バカロレア)ディプロマ取得者に対する単位免除や奨学金の給付
3: 1、2の当然の帰結として、主要な科目に関しては少なくとも英語+日本語の2言語に対応する必要があります(バイリンガルエデュケーション)。多くの学問分野で論文は当然英語であるべきでしょう。そうでないと多くの国の研究者・学生に触れる機会がなくなるからです。
グローバル人材を育成する環境の整備が急務
グローバルな人材育成や国際的に通用する研究、これがどの程度できるかどうかが大学・大学院等の高等教育の質を見る目安になってきています。この観点からみると、日本のトップの大学は教育について高い品質を誇っていても、学生・教員の多様性(Diversity)と英語での教育という点で大きく遅れをとっています。
提供:World Creative Education Group CEO 後藤敏夫さん
※本文は2012年6月25日現在の情報です。