
シンガポール日本人会クリニック 言語聴覚士※、公認心理師 鈴木 利佳子 先生
※日本言語聴覚士協会認定言語聴覚士:言語発達障害領域、小児構音障害・吃音領域、高次脳機能障害領域
海外で気をつけたい「ことばの成長」
海外在住のご家族からは、「子どもにはバイリンガルになってほしい」「幼児期から英語に触れさせれば自然にバイリンガルになるのでは」といった声を耳にします。しかし、言語聴覚士として子どものことばの成長を見守る中で「ことばの発達はそれほど単純ではない」と実感しています。
乳児期には音声を聞き分ける力の土台が育ち、英語環境で育つお子さんがきれいな発音で英語を話すことに驚くことがあります。実際には「言語の音に慣れること」と「言語を使いこなすこと」は同じではありません。日本語力も英語力も十分に育たないまま学齢期を迎え、学習面でつまずきを見せるお子さんがいることも事実なのです。
「理解し考え、伝えることば」を育てる
「学習に使えることば」は、語彙や文法、読み書き、説明力などで成り立ちます。これらは自然には身につかず、言語に触れる時期や豊かなことばを聞いて自らが使う経験の積み重ねでこそ育まれます。 自分の体験や気持ちを伝えたり相手の説明を理解する力、そして絵本を楽しんだり読んで考える力は、毎日の活動や人々とのやりとりの中で時間をかけて育つものなのです。
UNESCOが「母語」を重視する理由
国連教育科学文化機関(UNESCO)では、子どもが理解し考え学ぶための土台として「母語」を育むことを重視しています。「母語」が十分に育つことは、第二言語で学ぶ際の支えにもなります。「母語」を育てるためには、家庭内の「リテラシー」環境も大切です。「リテラシー」とは、単に文字を読んだり書いたりする力だけでなく、本や文字、ことばを通して理解し、考え、表現する力を意味します。
家庭でできること
海外では日本語の本や文字に触れる機会が少ないため、家庭で絵本を読んだり本を身近に置いたりして、日本語にふれる時間を作ることが重要です。読み聞かせや読書習慣は、語彙力や読み書きの能力の基礎になるのです。将来日本に帰国する場合は「話す」力だけでなく、読み書きなど学習にもつながる力を育てることが必要です。 一方、海外で学び続ける場合には、日本語は親子で深く気持ちをやりとりするための大切なことばと言えるでしょう。
バイリンガルは、早く複数の言語に触れれば自動的に完成するものではありません。ご家庭の中で「どの言語をどのように育てたいのか」を考え、ことばをしっかり育てる工夫を続けていくことが大切です。豊かなことばを育て、学びと人間関係の基礎を育てていきましょう。
2026年5月18日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

















