グローバル教育
なぜ「国際バカロレア」なのか 第2回 PYP・MYP編

── 第2回  PYP・MYP編 ──
 近年ますます注目度が高まる国際バカロレア(IB)について、シリーズでお届けしています。第2回となる今回は、IB初等教育プログラム(Primary Years Programme:PYP)と、中等教育プログラム(Middle Years Programme:MYP)について特集します。プログラムの内容をご紹介するとともに、実際にどのような授業や取り組みが行われているのか、シンガポールと日本のIB校に取材しました。

過去特集記事はこちら
https://www.spring-js.com/global/?category=80

取材協力先: 
・国際バカロレア機構 
・開智日本橋学園中学・高等学校(東京) 
・CANADIAN ACADEMY(兵庫) 
・Chatsworth International School(シンガポール) 
・Overseas Family School(シンガポール) 
・XCL World Academy(シンガポール) 
参照: 
・国際バカロレア機構ウェブサイト 
・文部科学省IB教育推進コンソーシアムウェブサイト

PYP(Primary Years Programme)とは
1997年に導入された3~12歳が対象のIB初等教育プログラム。「精神」と「身体」の両方を発達させ全人的に育てることを重視し、以下の力を育みます。

・主体性 
・自己効力感(自分ならできるという自信や確信) 
・他者と協力して育むコミュニティ感覚や責任感 
・行動する力 
・国際的視野

どの言語でも学ぶことが可能(7歳以上は第2言語の学習が必須)です。

特 徴

・算数・国語・社会・理科・芸術・体育の6つの教科を横断的に学ぶ 
・教員は「教える立場」でなく、学びを助ける「ファシリテーター」 
・「学んだことを実社会でどう生かすか」が大切

「探究の単元:Unit of Inquiry (UOI)」

 教科の枠を超え、横断的に「探究学習」を実践する単元。PYPの中心となる単元であり、時間割の中に「UOI」の時間が設定されています。「算数」や「国語」などの教科の内容を横断し、実社会に特定のテーマや概念を探究します。 

・私たちは誰なのか
     (Who we are)
     例:自己の認識・人間関係(家族・コミュニティ)など 

・私たちはどのような時代と場所にいるのか
     (Where we are in place and time)
     歴史・文化など

 ・私たちはどのように自分を表現するのか
     (How we express ourselves)
     芸術・異文化・メディアなど 

・世界はどのような仕組みになっているのか
     (How the world works)
    エネルギー・気象・テクノロジーなど 

・私たちはどのように自分たちを組織するのか
     (How we organize ourselves)
    政治・経済・社会システムなど

・この地球を共有するということ
     (Sharing the planet)
  環境問題・紛争問題・生物多様性など

MYP(Middle Years Programme)とは
1994年に導入された11~16歳が対象のIB中等教育プログラム。 
どの言語でも取得可能(第2言語の学習は必須)です。 

「MYPとIGCSEの違い」など、さらに詳しい内容をSpringのウェブサイトに掲載しています。ぜひご覧ください。

主なプログラム内容

8つの教科 
言語習得・言語と文学・個人と社会・科学・数学・芸術・保健体育・デザイン

学際的単元:Interdisciplinary unit 
学際的とは?・・・複数の異なる学問分野や専門分野をそれぞれ深く理解しながら、統合的な視点で課題解決をすること。MYPでは、2つ以上の教科の専門知識を扱うことが求められます。 

コミュニティプロジェクト(Community Project)・
 個人プロジェクト(Personal Project)・ 
奉仕活動と行動(Service as Action) 

・コミュニティプロジェクト(Community Project):通常、MYPの3年または4年次に実施。グループまたは個人で地域社会の課題やニーズを考え、     実際に奉仕活動を行います。 
・個人プロジェクト(Personal Project):MYPの最終学年に集大成として、個人が関心のある内容を探究し発表します。 
・奉仕活動と行動(Service as Action):MYP全期間で実施可能。特別なプロジェクトや単発の行動ではなく、「思いやり」から生まれる継続的な行動です。 

MYPのキーワード

概念(Concepts): 
知識や事実を記憶するのではなく、より普遍的で抽象的な考え方=概念を理解することで、他分野や実社会に応用させる学び方。 概念主導の学びの方法はMYPの大きな特徴の一つです。  

グローバルコンテクスト(Global Contexts):  
学習内容と実社会の出来ごとや背景、状況を結びつけて学ぶため、PYPの6つのテーマのように、IBOが定めた共通のテーマより教員が「学習の単元」が決められ、学習が進められます。 

6つのテーマ

・独自性と関係性  Identities and relationships 
・空間と時間における適応  Orientation in time and space 
・個人文化的な表現  Personal and cultural expression 
・科学的技術的な改革  Scientific and technical innovation 
・グローバル化と持続可能性  Globalization and sustainability 
・構成と進歩  Fairness and development

学習へのアプローチ(Approaches to Learning:ATL)

「どのように学ぶか」学び方を学ぶスキルのこと。 以下のスキルが挙げられています。

・コミュニケーションスキル 
・他者と協働するスキル 
・思考スキル
・リサーチスキル 
・自己管理スキル

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MYPとIGCSEの違いは?

IBの最終課程であるDP(Diploma Programme)を選択するために、MYPを修了している
ことは必須ではありません。
実際に中等教育課程でMYP以外のカリキュラムを導入している学校も多くあり、特に
シンガポールの多くのインターナショナルスクールでは、
IGCSE(International General Certificate of Secondary Education)が採用されています

※英国の義務教育修了制度を基礎とする、海外生のための国際的なカリキュラム


MYPとIGCSEの比較

どのカリキュラムに向いているか、ご本人の学習タイプや希望進路により異なります。

 MYPIGCSE
対象年齢 11~16歳(基本5年間)14~16歳(2年間)
学びの目的思考力・探究心・国際的・視野の育成専門科目の知識の習得
修了案件試験は必須ではなく、教員による内部評価が中心。
※国際的な修了証(MYPCertificate)を得るためにはeAssessment(外部試験)外部試験の必須。
「国際統一試験」を受けることが必須。外部評価が中心。

IGCSE:「各科目の知識をしっかり習得したい」「得意科目があり、試験で力を発揮できる」
MYP:「DPの前に、IBの探究型の学び方に慣れておきたい」「試験だけでなく、日頃の活動内容で評価されたい」
「IGCSE」について詳しくは、特集「国際AS & A Level、IGCSEとは何か」もご参照ください。
 

前回に引き続き PYP・MYPについて、星野氏に伺いました。
国際バカロレア機構アジア太平洋地域日本担当 地域開発マネージャー 星野 あゆみ氏

🆀日本のPYP・MYPに関する動向をお聞かせください。 
🅰幼児教育におけるPYPの数が、特に増えています。
  ここ10年で日本のIB校数は飛躍的に増加しました。特に幼稚園・プレスクールなど、PYPの幼児(未就学児)教育を提供する園の数が非常に伸びています※。IBは大学進学のためのプログラムというイメージを持たれる方も多いでしょうが、「探究学習」や「協働学習」など、自主的に学ぶ力を促進・育成することが根源にあります。子どもたちは元々が好奇心旺盛で、自分の好きなことや関心のあることを掘り下げることが大好きですから、こうした力を伸ばすIB教育が広く受け入れられているのだと思います。 ※国内のPYP認定校数は2015年は16校だったが、2024年末時点で67校に増加  (参照:国際バカロレア機構のデータおよび文部科学省の資料「IB認定校等数の推移」) 

🆀日本の一条校は、IB PYP・MYPと学習指導要領とどう両立させていますか? 
🅰PYPとMYPは学習内容の規定がないため、学習指導要領の通りに実施できます。 PYPとMYPは「どう学ぶか」あるいは「どう教えるか」についての規定はありますが、「何を学ぶか」という学習内容に関する決まりはありません。学校現場での工夫により、IBのカリキュラムフレームワークと学習指導要領のカリキュラムが無理なく両立されていると言えます。 

IB校での実際の取り組み

実施例 ❶ Chatsworth International School
PYP 「古代文明」の探究 

・複数の教科の教員より、古代文明に関するレクチャーを受講     同じテーマでも教員によってさまざまな指導スタイルや教材があることで、より多角的に理解しています。 
・自分たちで博物館の展示品や工芸品などを調査     地理、宗教、政治経済、社会構造などを複合的に学ぶことで、歴史や芸術についての理解を深めることができます。 
・アート作品を制作・展示し、探究したことを発表 

実施例 ❷ CANADIAN ACADEMY
PYP UOI:パペットによる影絵劇(Shadow Puppet Theater Unit)

6つのテーマ      :「How We Express Ourselves(私たちはどのように自分たちを表現するのか)」 
セントラルアイディア :「Exploring the function of light and sound enables people to use them as a form of 
                                           expression(光と音の機能を探究し、表現手段として活用)」

Grade2の生徒たちが「桃太郎」や「赤ずきん」の昔話をもとに物語を再構築し、影絵劇に挑戦しました。不透明・半透明の素材で自分たちが作ったパペットを用い、プロジェクターとスクリーン、ナレーションや音響効果を駆使しながら、創造した物語を表現していました。

実施例 ❸ XCL World Academy
PYP PYP エキシビジョン(PYP Exhibition)

PYPの最終学年ではその集大成として、「PYP エキシビジョン (PYP Exhibition)」を実施します。 
ある年は生徒たちが「SDGs(持続可能な開発目標)」に関連するテーマを決め、探究やインタビュー、地域社会での活動や発表を行い、学びを深めました。 

テーマ例 
・「世界の水問題」 :綺麗な水がどのように作られるかを理解するために浄水フィルターを作成し、世界の水問    
            題に対する意識を高めました。 
・「世界平和」   :平和についてのスピーチやアート作品を作成し、平和の行進を主導しました。

実施例 ❹ 開智日本橋学園中学高等学校
MYP 概念理解に重点を置く学習

概念:「模型(モデル)」の使用による理解とその限界  教科:地学(天体)・古典・歴史  
・物語を科学の目で見る目を養う     
江戸時代に日本独自の暦を作る様子を描いた映画「天地明察」を鑑賞し、劇中で何が行われているか、理科の知識で読み解きました。 
・「モデル(模型)」を使って、天道説の限界を実感する     映画の主人公は「天道説」をもとに日本に合わせた暦の修正に取り組んでいましたが、生徒の一人が「季節によって、昼夜の長さが変わる理由」を説明するため、自らクリスマスオーナメントをクラスメイトに配り、天道説には限界があることを説明しました。 
・「モデル(模型)」とは?     次に、生徒たちが発砲スチロールで地動説に基づいた天体の動きの模型を作成し、「季節によって、昼夜の長さが変わる理由」を理解しました。 

実施例 ❺ Overseas Family School
MYP Grade9の生徒14名による、カンボジアでの「奉仕活動」と「文化的学習」の実施

・現地幼稚園で子どもたちに英語を教える    
・現地のNGOにノートパソコンや物資の寄付 
・農村地域の学校に遊具を設置    
・地雷撤去センターなどを訪問し、「戦後復興」について学習 

現地の人々に深く共感し、リーダーシップを発揮する経験により、「自ら考え行動し、社会に貢献する」という意識が育ちました。 


MYP 生徒主導による「フードコレクション(食品寄付)」の実施
全校生徒より2,117点の保存食品が寄付され、シンガポールで支援を必要とする家庭を
サポートする団体に届けられました。
→MYPが大切にする「思いやり」「奉仕」「社会的責任感」を育てる経験に。

PYP・MYP校に聞きました。 

IB教育の良いところは?

国際カリキュラムであり、さまざまな学習背景を持つ生徒でもスムーズに移行できるよう設計されていること。特に本校の多くの生徒のように海外転勤のある家庭のお子さまにとって、転校しても学習への影響が最小限に抑えられることは大きな利点である。 (CANADIAN ACADEMY)

「Student Centered Learning=学習の主体は生徒」というIBの合言葉をもとに教員も日々教え方を学んでおり、生徒も教員も全員が「学習者」として成長を続ける学校文化が育まれている。また、「IB」という共通言語・概念があるおかげで、各教科の教員同士が授業方法や評価について理解がしやすくなった。(開智日本橋学園中学・高等学校)

IBは探究・奉仕活動を通じて、主体的で思いやりのある人間性を育て、批判的思考や他者と協働して取り組む力、国際的視野など、生涯役立つスキルを育てるカリキュラムである。これらIBが目指す教育と「多様な価値観を持ち、広い世界で活躍できる学習者を育成する」という本校の理念が一致している。(Overseas Family School)

IBは国際カリキュラムであり、世界中の文化や伝統について、互いを理解し尊重することを大切にしている。さらに教科を横断したスキルを育むことで、生徒が国を移動したり他のカリキュラムへ移行する場合でも柔軟に対応できるという利点がある。グローバルな教育環境の中で、どのような状況下でも生徒が自国の文化や伝統とつながり、他者と分かち合えるという、生徒の成長を多面的に支える役割を果たしている。 (Chatsworth International School)

 IBは探究型・生徒主体の学びを通じて、好奇心や責任感、学ぶことへの情熱を育てるカリキュラムである。PYPからDPまで一貫して子どもたちが学問的・人格的に成長することを目的としており、単なる試験対策だけの学びではなく、グローバルな視野とともに世界中のどこにいても人生を生き抜く力を育てる教育を実践している。 (XCL World Academy)  

画像提供:開智日本橋学園中学高等学校

 

 

 

 

 

画像提供:XCL World Academy

IBで学ぶ生徒の声を聞きました 

開智日本橋学園中学・高等学校 中学2年生 
樋口 綾さん

物ごとの本質を学べる学び

なぜIBで学ぼうと思いましたか?  
知識だけではなく、いろいろな物ごとの本質を学習できると考えたからです。 

印象に残っている授業やエピソードはありますか?  
国語(言語と文学)の授業で「商品パッケージの分析」を行いました。書かれている内容を深く理解しただけでなく、どういう意図や理由があってそのパッケージが作られたかがわかり、その後日常生活を送っていても役に立っています。  また、英語と美術で、読んだ英語の本からポスターを制作する授業がありました。本の内容に合わせたデザインを考えたのですが、出来上がった作品が展示されフィードバックもいただけたのが印象的でした。 

IBで成長できたことと苦労していることはありますか?  
課題の量が多く期限もあるため、自分自身がしっかりと管理する必要があります。私は手帳を使いましたが、こうした自己管理能力は向上したと思います。苦労した点は、さまざまな視点から物ごとを捉える「批判的思考」は小学校まであまり経験したことがなかったため、慣れるまで大変でした。 

CANADIAN ACADEMY  Grade10 
Y. S.さん

心に残る「学際的単元」での学び

なぜIBで学ぼうと思いましたか?  
私は帰国生でした。日本に帰国後、学校やカリキュラムの選択肢はいろいろありましたが、勉強し続けたいと思う科目がIBに複数あり、自分にはIBが合っていると思ったからです。 

印象に残っている授業やエピソードはありますか?  
中3の「Interdisciplinary Unit(学際的単元)」です。広島の原爆について学び、3Dプリンターを使って原爆の模型を作り、プレゼンテーションを行いました。その後、クラスの友人と一緒に広島を訪れ、現地で何が起きたのかを詳しく学ぶことができたのも、非常に心に残っています。2つの教科を統合して学習したことは、とても興味深い経験でした。 

IBで成長できたことと苦労していることはありますか?  
IBの評価基準や試験の仕組みを理解し、実践することが最初は難しかったです。レポートの構成や書き方も前の学校と大きく違っていたため、少し苦労しました。しかし、早いうちにそれらに慣れたことで、以前より作文やレポートの書き方に自信が持てるようになりました。また、海外では日本語力を維持する機会が少なかったのですが、IBプログラムでは語学学習を重視しているため、今は日本語力が大幅に向上したと感じています。

Chatsworth International School  Year9 
井波 紗良さん

自ら考える力や探究心を育てたい 

なぜIBで学ぼうと思いましたか?  
小学校までは暗記重視の勉強ばかりをしていました。もっと自ら考える力や探究心、英語力を育てたいと思い、中学はIBの学校を選びました。 

印象に残っている授業やエピソードはありますか?  
音楽の授業です。自分の好きな曲を友人たちと演奏したり、ガレージバンドという音楽アプリを使って、宇宙をテーマにした曲作りやラップミュージックを作ったりしました。またブルースなど、さまざまなジャンルの音楽の歴史を調べることができ、とても勉強になりました。 

IBで成長できたことと苦労していることはありますか?  
得たものは、交渉力と忍耐力と寛容さです。IBではグループワークを行うことがありますが、同じグループになれば人種や国が違っても、話し合うことが必要になります。中には真面目に取り組まないタイプの人がいたり、時には意見がぶつかったりすることもあります。そんな時にどう解決すれば良いか、時にはお互いに妥協しながら解決策を生み出すということを学びました。 

 

※2025年6月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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