教育の力で 子どもたちの未来を切り拓く
~母語と英語で育むグローバル人材~

Overseas Family School(OFS) 校長
Vanessa McConville 氏
はじめに
私が教育者を志したきっかけは「良い教育と優れた指導が生徒一人ひとりの人生に大きな影響を与える」という信念からでした。教育の道に進む前は法曹界で働いていました。そこでも人々を助けるために尽力していましたが、私が関わるのは常に問題が起こった後であり、「もっと早くに手を差し伸べられたら」ともどかしさを感じていたものです。その点、教育には生徒を導き、支え、困難を乗り越える力を育むだけでなく、事前に課題を避け、より前向きな選択を可能にする力があると気づいたのです。
法学の修士課程を修了する傍ら、大学で法律の講師として教鞭をとる経験を通じて、教育の面白さとやりがいに気づきました。特に高校生の教育は挑戦が伴う一方で、自身の知識や経験を最も価値ある形で生かせると感じたからです。それ以来、私は国際バカロレア・ディプロマ(IBDP)※1の「グローバル・ポリティクス」や「知の理論(Theory of Knowledge)」、さらにIGCSE※2の「ビジネス」や「経済」の授業を担当し、教育者として歩み始めました。
※1…16~19歳対象の国際的な高等学校修了資格
※2…14~16歳対象の国際的な中等教育修了資格
「コーディング」に「チェス」も ~特色ある教育プログラム~
本校には、世界およそ65ヵ国から生徒が集まっており、多様な文化や背景を持つ生徒たちがともに学ぶ環境があります。本校の教育の大きな特徴の一つは、「母語プログラム」が充実していることです。現在15言語を提供しており、各生徒が自国の言語や文化を大切にしながら学べる体制が整っています。また、英語初学者のために「スタディ・プレパレーション・プログラム(SPP)」を実施しています。英語学習をフルサポートし、通常クラスに参加できるまで丁寧に支援することで、生徒一人ひとりが安心して学習を進められると定評があります。
さらに本校独自の時間割では、幼稚園や小学校の段階から「コーディング」や「チェス」などの専門クラスを設け、教科学習にとらわれない多様な視点で将来役立つスキルも育成しています。チェスは、批判的思考力や忍耐力、行動の結果を考慮する力を養うだけでなく、他者の視点を理解する力も育みます。対局を通して論理的に先を見通し、戦略を立てる力を実践的に身につけることができるのです。コーディングの授業では、単に技術を学ぶだけでなく、現実の課題に対して創造的な解決策を設計する力や、問題を段階的に分析し論理的に構築する力を育成します。テクノロジーが日常や社会を形作る現代において、このスキルは将来の学習や仕事の場面で非常に有用です。このような学びを通じて、生徒は学問や技能を総合的に結びつけて考え、挑戦する力を伸ばすことができます。また、教科学習に限らない経験は、柔軟な思考や創造力、協働力を育む上で非常に効果的です。
本校では、教育段階に応じてIEYC※3、IPC※4、IB、IGCSEといった国際的に認められたプログラムを導入しています。これらは単に学力を伸ばすだけでなく、グローバルな視点で活躍できる素養や批判的思考力、協働する力や問題解決能力といった、21世紀に求められる力を育むよう設計されています。各プログラムでは、生徒主体の探究学習を重視し、教育を総合的に捉えるアプローチを奨励しています。例えば、ある課題を通して異なる教科の知識を関連付け、実際の社会や日常生活でどのように応用されるかを理解させることで、学びの意味を深く実感できるようになります。
※3…2~5歳を対象にした国際的な幼児教育プログラム
※4…5~11歳を対象にした国際的な初等教育プログラム
「母語教育」の大切さ
本校が母語教育に力を入れる理由は、研究によって明らかになっている学習効果と深く関わっています。その効果とは、母語を維持・発展させる子どもは、第二言語の習得においてもよりスムーズであり、さらにコミュニケーション能力や批判的思考力の向上にもつながるというものです。また、母語とのつながりを持ち続けることは、子どもたちに安心感をもたらします。新しい環境や異文化の中でも、自分の文化や伝統と強く結びついていることで、自己のアイデンティティを保ちながら柔軟に適応できるのです。それらの理由から、本校では母語教育は単なる言語学習ではなく、生徒たちが自信を持ち、多文化社会で力強く成長するための土台であると位置付けています。生徒一人ひとりが自国の文化と誇りを大切にしつつ、新しい知識やスキルを伸ばすことができる環境をこれからも提供していきたいと考えています。
近年、子どもに英語力をつけさせたいという理由から、シンガポールへ「教育移住」するご家庭も増えているそうで、中には母子留学をするケースも見られます。移住や留学を実施する上で最適な年齢は、お子さまやご家庭の状況によって異なりますが、一般的には、早い段階で英語環境に触れるほど、言語習得がスムーズに進む傾向があります。本校では、2歳からお子さまを受け入れており、教育の初期段階から自然に英語に触れる機会を提供しています。この時期に英語を学ぶことは単に言語能力を身につけるだけでなく、母語とのバランスを保ちながら多文化環境に適応する力を育むことにもつながります。しかし、ご家庭での「母語の維持」も非常に重要です。親子で日常的に母語で会話する時間を持つことは大切で、お子さまは安心感を得ながら新しい環境に柔軟に対応でき、言語習得と自己肯定感の両方を高めることができるでしょう。
英語初学者に開かれた学校
本校はシンガポールのインターナショナルスクールの中でも、高等部において英語初学者を受け入れる数少ない学校の一つです。実際、卒業生の中には高校から英語クラスで学び始めた生徒も少なくありません。英語初学者として入学する生徒は、小規模でサポート体制の整ったグループに配置されるため、それぞれの学習スタイルに最も合った方法で学術英語を伸ばすことができます。個別の進度や理解度に合わせた丁寧な指導により、生徒一人ひとりが自信を持ちながら学べる環境が整っているのです。
入学に際して生徒に最も大切なのは、現在の英語力に落胆することではなく、前向きな姿勢や挑戦する意欲、そして学びたいという熱意を持つことです。そのような心構えがあれば生徒は学習の中で大きく成長し、英語力だけでなく、自信や自主性も養うことができるのです。
「グローバル人材の素養」を育てるには
変化の激しい現代社会で活躍できる「グローバル人材」とは、単なる語学力や国際経験だけでなく、クリエイティブに問題を解決し、多様な文化や価値観を持つ人々と「オープンな心」で協働できる力を持つ人のことです。そのために必要な能力は主に三つに集約されます。一つは優れたコミュニケーション能力で、他者と考えを伝え合い、理解し合う力です。二つめはチームで協働する力で、多様な背景を持つ人々の強みを生かして目標を達成できる力です。そして三つめは技術や情報に関する確かな理解で、急速に進化するテクノロジーを活用し、柔軟に問題を解決する基盤となります。
本校では、授業や探究学習、課外活動や国際的な協働プロジェクトを通じて、生徒たちがこれらの力を実体験を通して身につける環境を整えています。異なる価値観や意見に触れながら適応し、学びを統合して現実の課題に応用する経験を積むことで、生徒たちは変化の多い世界でも主体的に行動できる「真のグローバル人材」として成長していくのです。
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海外で暮らす日本人家庭へのメッセージ
本校には多様な国籍の生徒が在籍しており、さまざまな文化的背景の中で学び合う環境があります。その中で日本人の生徒について、いくつかの特徴を感じています。それは、礼儀正しく周囲への配慮ができ、授業にも真剣に取り組む姿勢が際立っていることです。しかし一方で、意見を公の場で発表する際には控えめになりがちで、自分の考えを積極的に表現することが課題となる場合があります。そのため、私は日本の生徒には、自分の考えを他者の前で発表する練習を重ねスピーチに自信を持つことをすすめています。また、他者の意見に問いかけ、自分の視点を広げ探究することで批判的思考力をより一層伸ばすことができると考えています。こうした経験を通じて、日本人の生徒は学力だけでなく、自信や表現力、そして柔軟な思考力をバランス良く育むことができると確信しています。
海外での生活は、お子さまだけでなくご家族にとっても特別で刺激的な経験です。新しい言語や文化に触れることで、毎日が発見と学びの連続になることでしょう。しかし、お子さまは海外ならではの戸惑いや緊張を感じることもあるにちがいありません。そのような時は、親御さんには温かく見守り、家庭での会話を大切にしていただきたいと思います。新しい環境での挑戦や小さな成功、家族で分かち合う喜びの瞬間は、一生の宝物になります。限られた海外でのひとときを、思いきり楽しまれることを願っています。
Profile
Vanessa McConville氏
英国出身。2001年 法学士号(LLB)、04年 国際ビジネス法修士号を取得。その後、教員養成課程を修了し、名門シックスフォームカレッジやドイツ ミュンヘン国際学校など20年以上にわたり教鞭を取る。2015年 OFSに入職、22年より現職。教育分野でのリーダーシップを目指す女性を支援・育成するネットワーク「WomenEd Singapore」を支援。現在、バース大学にて教育学博士号取得の最終年度に在籍中。
2025年11月25日現在の情報です。最新情報は直接お問い合わせください。

























