グローバル教育
なぜ「国際バカロレア」なのか 第4回 IBDP科目選択編

前回までの記事はこちら
https://www.spring-js.com/global/?category=80

国際バカロレア(International Baccalaureate: IB)についてお届けしている本シリーズ、最終回の今回は、IBディプロマ・プログラム(IBDP)における「科目選択」に焦点を当てます。
IBDPは、大学進学を見据えた国際的な教育プログラムで、2年間で6科目を履修します。その選択は進学先の学部や専攻にも関わる大切な決断となるため、多くの学校では、プログラム開始前に生徒と時間をかけて話し合い、最適な履修計画を立てています。今回は、科目選択の方法や考慮すべき点についてお伝えします。

取材協力先:
・  茗溪学園中学校高等学校(茨城県)
・  立命館宇治中学校・高等学校(京都府)
・  Dulwich College(Singapore)(シンガポール)
・  St. Joseph’s Institution International: SJI International(シンガポール)
・  United World College of South East Asia: UWCSEA(シンガポール)
・  XCL World Academy Singapore(シンガポール)

参照先:
国際バカロレア機構 文部科学省IB教育推進コンソーシアム ウェブサイト

※誌面と同じ一覧がPDFでご覧いただけます。

IBDPの科目

前回のおさらい

6つの教科群と3つのコア科目

◆ 6つの教科群

各教科群(グループ)から1科目ずつ選択し、合計6科目を履修します。

画像提供:United World College of South East Asia
 教科科目
グループ①言語と文学言語A:文学、言語A:言語と文学、言語A:文学と演劇※1(SLのみ)
グループ②言語習得言語B、古典言語、初級言語(SLのみ)
グループ③個人と社会地理、歴史、経済、ビジネスと経営、グローバル政治、
情報テクノロジーとグローバ社会、哲学、デジタル社会、
心理学、環境システムと社会※2など
グループ④理科生物、化学、物理、コンピュータ科学、デザインテクノロジー、
スポーツ・エクササイズ、健康科学、環境システムと社会※2
グループ⑤数学解析とアプローチ(AA)、応用と解釈(AI)
グループ⑥芸術音楽、美術、文学と演劇※1(SLのみ)など

参照:国際バカロレア機構ウェブサイト、文部科学省IB教育推進コンソーシアムウェブサイト
※1…グループ①と⑥の横断科目 ※2…グループ③と④の横断科目

画像提供:XCL World Academy Singapore

◆ HL・SLとは?

その他、EE:Extended Essay「課題論文」、TOK:Theory of Knowledge「知の理論」、CAS:Creativity, Action, Service「学問以外の活動」の3つのコア科目もIBDPの必須科目です。詳しくは前回の内容をご覧ください。

画像提供:Dulwich College(Singapore)

◆ 科目選択の条件・注意点

・HLは最低3科目
・Group 1(言語と文学)、Group 2(言語習得)は必ず1科目ずつ選択
※言語科目A=母語、B=外国語。Group1とGroup2のどちらもAを履修することは可能です。言語Bと初心者向けの「ab initio」は履修のための条件があります。
・Group Group3、4、5基本は各1科目選択
・Group 6は芸術を選ぶか、他の科目で代替可能

理系の学部や専攻では数学や理科系科目、文系では社会学系科目の履修が出願要件となる場合が多いので、あらかじめ志望大学の要件を確認しておきましょう。 

言語について

IBDPにおける「言語」とは、「科目としての言語」と、「学習で使用する言語(履修言語)」の両方の意味があるため、区別して考えましょう。

言語科目

IBは「他文化への理解」を大切にしているため、IBDPでは母語の他、外国語の履修が必須となっています。以下の点を考慮しておきましょう。

◆ 言語A・言語Bとは?

◆ 言語科目で日本語がない場合は? SSSTとは?

シンガポールをはじめ海外の学校では、言語科目として日本語が提供されていないことも多く、独学での学習・評価制度「School Supported Self Taught(SSST)」を利用できる場合があります。ただし制度を利用できる学校が限られている他、履修には条件があります。必ず学校に確認しましょう。

履修言語

◆ 「日本語DP(Japanese Language Diploma Programme)」とは?

日本語がメインの生徒もIBDPに挑戦しやすい!

数学・社会・理科など、言語以外の科目を日本語で学ぶことです。現在、IBDPの公用語は英語・フランス語・スペイン語で、この3言語での履修が基本となります。しかし、一部の日本のIB認定校(インターナショナルスクールなどを除く)では、国際バカロレア機構と文部科学省の協定に基づき、日本語でDP科目を開講することが特別に許可されており、これを「日本語DP」と呼びます。 
ただし「日本語DP」でも、すべての科目を日本語で受講できるわけではなく、6科目中2科目(通常、グループ2「外国語」に加えてさらに1科目)は、英語など公用語で履修する必要があります。
開講科目や言語の範囲は学校によって異なります。「どの科目を日本語で履修できるか」は、必ず学校に確認してください。

画像提供:Dulwich College(Singapore)

◆ 「バイリンガル・ディプロマ」とは?

2つの言語の科目を組み合わせて取得するディプロマを「バイリンガル・ディプロマ」と呼び、右記のいずれかの条件を満たした場合に取得可能です。複数の言語で高度な学習能力があることを証明することができ、大学進学やキャリア育成での可能性が広がります。

 ディプロマ取得の必須条件ではないため、母語以外の言語に不安がある場合はバイリンガルディプロマにするか、よく検討しましょう。

画像提供:XCL World Academy Singapore

「3つのコア科目」

IBDPは単に知識を学ぶだけでなく、「学び方」「考え方」「社会との関わり方」を深めることを目的として、以下の3つの取り組みが必須となっています。

第3回 IBDP概要編では、他にも「3つのコア科目」の実施例をご紹介しています。
こちらからぜひご覧ください。

画像提供:United World College of South East Asia

具体例をご紹介します
◆ Creativity, Activity, Service(CAS)

実施例 立命館宇治中学校・高等学校

小笠原諸島の父島で、海洋生物学や環境保全を学ぶ
~知識だけではない「本物の学び」~
東京より船で24時間、日本でありながら「外国よりも遠い島」と称され、独特の生態系や自然が形成されている小笠原諸島、父島へ。

〈活動内容〉
・ 絶滅危惧種ウミガメの保護活動:小笠原海洋研究センターにて卵を保護し、孵化させる。
・ 国内外の研究者やボランティアの方々との交流:現場で活躍する人のリアルな声を聞く。
・ 学校の文化祭や京都市環境保全活動センター※で発表予定(2025年9月時点)。

自然と向き合い、「絶滅危惧種の保護」という世界的な課題に触れたことで、地球環境の大切さを「自分ごと」として捉えるように。

画像提供:立命館宇治中学校・高等学校   孵化した子ガメとともに。
孵化した子ガメとともに。

日本とシンガポールのIB校に聞きました。

◆ IBDPへの心構えや各学校のサポートについて

茗溪学園中学校高等学校 

本人の「学びたい」と思う意欲が何より大切
本校のIBDPコースでは、成績よりも生徒自身の強い意欲を重視しています。IBでは「自己決定力」や「忍耐力」が求められるため、手取り足取り教えることが、かえって生徒の成長の妨げとなるからです。その分、スタート時の学力に関わらずIBDPでの学びを通じて成長し、大学で活躍する卒業生が多数います。高スコアだけを目標にするのではなく、「IBの学習者像」に沿った学び方を身につけることが、成長に繋がると確信しています。

立命館宇治中学校・高等学校

自ら学びに向かい、問いを立てる
本校のIBコースは、探究心とバランス感覚を兼ね備えた学びを実現します。多様な視点から世界を理解する力を培い、興味や強みを伸ばして、国際的な環境で活躍できる力を育てています。こうした生徒を支えるのは、学びはもちろん、メンタルや進路まできめ細かく見守る温かな教員陣です。

St. Joseph's Institution International(SJI International)

自分の意見を表現し、議論する力を育成
IBDPでは、生徒が積極的に授業に参加することが求められます。単に疑問点を質問するだけでなく、自分の意見を的確に表現し、議論し分析する力が重要です。そのため、本校は少人数制、対話型の授業が行われ、一方的な講義形式の授業は非常に稀です。科目選択の際も4名の進学カウンセラーが生徒と面談し、保護者向けの説明会や生徒向けのワークショップも実施するなど、IBDPを始める前からのサポートも充実しています。

United World College of South East Asia(UWCSEA)

IBDPへの挑戦を支える進路・学習サポート
本校は、「教育で人と国と文化をつなぎ、平和と持続可能な未来に貢献」を使命に掲げ、幼稚部から高校まで一貫したIBの学習プログラムを提供しています。学問に加えて、アウトドア教育、放課後活動、人格的・社会性の育成、社会貢献活動を重視。「IB Systems Transformation: Leadership for Change※」を世界で初めて導入した学校の一つです。また、アカデミックアドバイザーの助言、卒業生による支援、キャリアフェアを通じた企業訪問、インターン、メンター制度など、キャリア・進路支援を多角的に行っています。
※国際バカロレア機構(IBO)とUWCSEAが協働して開発した、新しいIBDP科目。「変化を起こす力」の育成を目的とし、実世界の課題に取り組むプロジェクトベースの学習を中心に構成。2025年時点では試行段階(パイロット版)であり、Standard Level(SL)2科目分として履修が認められる。

IBDPを修了した卒業生に聞きました。 

国立大学医学部3校に合格。
IBで国内・海外大学併願を実現。

茗溪学園中学校高等学校 2021年卒業
京都大学医学部医学科在籍
吉見 日花流(ひかる)さん

🆀なぜIBを選んだのですか。
未知への興味があったからです。一番魅力だと思ったのは、少人数クラスで議論をしながら勉強できるという点でした。いわゆる日本的な受験競争が自分には合わないと感じ、受験にとらわれてしまうのは嫌だと思っていましたが、IBの学習者像にある尊重し合い議論しながらという学びのスタイルが心地良く、私の「勉強したい」という気持ちの理想形だったからです。

🆀選択した科目は? 
HL:数学、生物、化学
SL:日本語A、English B、ESS「Environmental Systems and Societies(環境システムと社会)」

もともとは歴史など、文系科目が得意でした。科目選択時点では希望進路を決められていませんでしたが、理系にも進めるように理系科目を中心に選択しました。高校で開講されていた科目が豊富で、日本と海外どちらの大学を受験するにも十分な科目が揃っていたことは良かったです。

🆀合格した大学は?入試形式、IBの他に準備したことは?
IBを利用する入試の場合、受験校数に制限なし!国立4大学を受験
受験した大学入試方式は以下の通りです。

共通テストの勉強を並行するのは時間的に厳しかったので、要件にない大学を選びました。

〈海外大学〉 
●    ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン
    (University College London:UCL)
    QS世界大学ランキング2025 9位
●    キングス・カレッジ・ロンドン
    (King's College London:KCL)
    QS世界大学ランキング2025 40位
ともに生物学専攻

海外大学か日本の大学かについても悩みましたが、両方受験することにしました。
日本の大学は、IBを利用する入試の場合は受験校に制限がないため、4校受験することが可能でした。
イギリスの大学は「UCAS」という一度に複数の大学に応募する一括システムを利用します。出願時期は夏で、最終試験は11月だったため、その前に受験した模試の点数を提出しました。イギリスの場合、その段階では最終試験で定められた点数を取得する必要がある「条件付き」での合格となりました。

🆀なぜ医学部を目指したのですか?
EE(Extended Essay)を進める過程で医学にも関心を深めました。製薬会社に勤めている父から、医師免許があるとそれを生かせる職業はたくさんあると聞いていたので、人間に関する総合的な学問である医学を学んで選択肢を広げよう、と思いました。

🆀IBで学んで良かった点は?
医学部という環境が特殊なため、視野が狭くなりそうになる時もあります。そのような時にはIBで学習した「知の理論」を思い出し、この人たちの考えはどのように形成されたのかを想像し、自分をどう位置づけていくべきかを考えています。そういったバランス感覚がとても身についていると改めて感じています。
医学に関わることは、人の命に関わる大きな責任を伴うので、IBの学習者像にもある、常に学習者でありたいと思っています。

自分の関心や将来の起業を見据えIB科目を選択。
UCバークレーに進学。

Dulwich College(Singapore) 2025年卒業
University of California, Berkeley 環境経済学・政策学(理学士 学士号)
眞下 万葉(まよ)さん

🆀大学入試で利用した受験方式を教えてください。
「IBアドミッション(高校の成績証明書およびパーソナルインサイトの質問への回答)」、IELTSのスコアを利用した選抜

🆀IBDP開始時の語学力(英語力・日本語力)は?
8歳でシンガポールに移住するまで日本で生まれ育ったため、日本語ネイティブです。英語もIBDP前にIGCSE※でCambridgeの世界文学(Cambridge International IGCSE World Literature)とEdexcelの英語科目を履修し、ネイティブレベルになりました。
※IGCSE:GCSE(イギリスの中等教育修了資格)に該当する国際資格。ケンブリッジ(Cambridge International)とエデクシエル(Edexcel)の2大国際試験機関により運営・認定されている。

🆀選択した科目は?
HL:Economics(経済)
        Business & Management(ビジネス&マネジメント)
        Computer Science(コンピューターサイエンス)
SL :English A Language & Literature(英語A 言語と文学)
        Japanese A Literature(self-taught)(日本語A 文学 独学)
        Mathematics Analysis & Approaches(数学 分析とアプローチ)

IGCSEで経済学に強く関心を抱いたこと、起業という将来の目標と、さらにアメリカの大学進学を視野に入れていたため、自分の関心が高い科目を優先してHLを選択しました。日本語Aを選択することで、日本語のスキルも向上させながら、「バイリンガル・ディプロマ」の取得を目指しました。

🆀IBDPでやりがいを感じたところや苦労したことは?
 IBDPの2年目は、大学出願と膨大な課題管理の両立が最大の挑戦でした。多くの重要なタスクを同時に管理しなければならず苦労しましたが、これらを克服する過程で、「時間管理」「組織力」「チームワーク」「教員との連携」「マルチタスク」「レジリエンス力(精神的回復力)」のスキルを習得。これらは、大学生活とその後のキャリアを支える強固な基盤となっています。

IBDPで学ぶ在校生にも聞きました。 

世界大会出場。
レーシングチーム運営で培った実践的学び。

XCL World Academy Singapore
Grade12 在学中
森 楓花さん

🆀なぜIBを選択したのですか? 
論理的な思考力や問いを立てる力が養われ、さらに各教科の知識が分断されずに繋がりを意識しながら学習できる点に魅力を感じたからです。難しいプログラムですが、こうした力を身につけることは、大学進学のためだけでなく、将来広い世界で生きていくための糧になると思います。

🆀選択した科目は?
HL:Biology(生物)
        Math Applications and Interpretations(数学 応用と解釈)
        Business Management(ビジネス&マネジメント)
SL :English A(英語A)、Chinese B(中国語B)、Visual Arts(美術)

🆀印象に残っている活動は?
 CASで行った、学校のレーシングチーム「Team XCLerate」での活動です。「F1 in Schools(STEM RACING)」※の世界大会にシンガポール代表として出場し、さまざまな経験をすることができました。生徒3~6名で本物のレーシングチームのように役割を分担し、チームを運営します。私は「エンタープライズリーダー」として、スポンサーとのやりとりや予算編成、チーム内のコミュニケーション構築などを担当しました。この経験を通じて、自分の行動は実社会でも本当に役に立つのだということを実感でき、将来の進学やキャリアに向けて、確かな基盤を築くことができました。
※F1(フォーミュラ1)の世界機構である 「Formula 1」が後援する、STEM教育をテーマとした国際教育プログラム。9~19歳が対象。地区大会・国内大会を経て世界大会も開催されている。

🆀IBを通じて学んだことは?
「Team XCLerate」と学業との両立は大変でしたが、時間管理や集中力、自分の考えを自信を持って表現する力が身につきました。自分の限界を超えて挑戦することが何よりの経験となりました。

編集後記

全4回にわたりお届けしてきた「国際バカロレア(IB)」シリーズも、今回が最終回となります。近年、日本国内でのIB教育の広がりに加え、「IBで学びたい」「IBをもっと知りたい」という保護者やお子さまから多くの関心が寄せられたことが、本特集を企画したきっかけでした。 
IBは、優れた教育プログラムである一方、数ある学びの選択肢の一つでもあります。特定の科目に偏らず幅広い教科を横断的に学ぶこと、自ら問いを立てて探究を深め、他者との協働が重視される学びが、ご自身やお子さまに本当に合っているか、望む学び方であるかを見極めることも大切だと感じます。
本特集を通じて、IBを単にスコアや大学進学のための手段としてだけ捉えるのではなく、IBへの本質的な理解を深め、皆さまの学びの選択肢を広げる一助になりましたら幸いです。

※2025年11月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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