企業からの声
グローバル時代を迎えた今、 企業が求める人材、教育とは何でしょうか。 企業の方からお話をうかがいました。

「街づくり」とは、文化と価値観を 次世代へ手渡す次代への橋渡しと言っても 過言ではないでしょう。
これからの時代に求められるスキルとして重要なものは、知識や語学力はもちろんですが、他者と向き合い、対話し、学び続ける姿勢です。時代ごとに呼び方は変わってきましたが、本質は長い歴史の中でほとんど変わっていないのではないでしょうか。
三菱地所アジア社取締役社長
加藤 新哉(かとう しんや)氏
1996年 一橋大学卒業、三菱地所株式会社入社。ロックフェラーグループインターナショナル社(米国ニューヨーク州、2004~2009年、2014~2019年)、経理部(2019~2025年)を経て2025年より現職
会社概要
三菱地所アジア社
1937年設立。オフィスビル、商業施設、ホテル、物流施設など幅広い不動産開発・資産運用事業を展開。「まちづくりを通じて社会に貢献します」を基本使命に、日本のみならず世界を視野に、真に価値ある街づくりを通じた新たな価値創造と環境との共生に挑み続けている。
Q.御社のご紹介をお願いします。
三菱地所グループは、1890年に国から丸の内の土地の払い下げを受けたことを起点に、日本の近代的な街づくりを切り拓いてきた総合デベロッパーです。日本初の本格的オフィスビルである「丸ビル」の建設を皮切りに、オフィスや商業施設、文化・交流機能を融合させた都市空間を創出し、130年以上にわたり丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)を日本を代表するビジネスセンターへと進化させてきました。現在は常盤橋エリアの再開発などを通じ、オフィスを核としながらも人々が集い、交わり、新たな価値が生まれる「圧倒的に魅力ある都市空間」の実現を目指しています。
海外事業は1970年代に米国から本格化しました。ロックフェラーセンターを運営していたロックフェラー社を取り込んだところからスタートしています。シンガポール法人は2008年に設立され、当地を拠点に東南アジアやオセアニア、インドなどで開発を推進しています。当社グループは「人を想う力、街を想う力」というブランドスローガンのもと、時代の変化や社会の要請に応えながらサステナブルな街づくりを通じて社会への貢献と新たな価値創造に挑み続けています。
Q.貴社が手がける「街づくり」に、教育機関や学びの場はどのように位置づけていますか。
産学官とも連携して取り組んでいます。例えば、教育や学びの場を街そのものを成長させる中核的な機能と位置付けています。街全体を「教育のプラットフォーム」と捉え、単に施設を整備するのではなく学びの仕組みを街に組み込み、そこで生まれた知見を次世代へ還元する循環型の街づくりを進めています。
その象徴が、東京大学と設立した「三菱地所×東大ラボ」であり、イノベーション創出やスマートシティの実現をテーマに未来の都市の在り方そのものを研究しています。さらに、東京学芸大学とはエコッツェリア協会を通じて新しい時代の学びの場づくりに取り組み、慶應義塾大学や一橋大学とも共同研究や交流拠点の設置を行うなど、複数の大学と連携しながら研究成果を実際の開発へと反映させています。また河合塾学園と連携し、丸の内で小学生以下を対象とした探究型の学びの場を展開するなど、子どもたちが街で学び、遊び、刺激を受ける環境づくりにも注力しています。
シンガポールを拠点とするアジア・オセアニア地域の展開においてもこうした思想は共通しており、各地域に根ざした「知のネットワークづくり」を重視しています。オフィスを賃貸し家賃を収受するだけでなく、そこで働いている方々のライフスタイルに合わせた価値を提供し、全体のバリューを上げていく取り組みに尽力しています。また、オフィス中心の街から人の学びと成長を支える街へ、当社はデジタルとリアルを融合させたスマートシティの取り組みも通じて、一人ひとりの可能性を引き出す都市空間の創出を目指しています。
Q.御社が求める人材は。
重視しているのは「何を学んできたか」以上に、「どんな人間か」「どのような価値観で行動してきたか」という本質的な部分です。長期的に街づくりを担う存在としてふさわしい人物かどうかを丁寧に見極めています。その指針となっているのが、社内で共有されている「5つの人材像」です。第一に、成し遂げたい未来の実現に向けて行動できる「志ある人」。第二に、不動産や専門分野のプロとして学び続け、現場で成果を出せる「現場力・仕事力のある人」。第三に、高い倫理観を持ち、周囲から信頼される「誠実・公正である人」。第四に、組織として成果を出すことを意識し、人を育てチームで挑む「組織で戦える人」。そして第五に、失敗を恐れずに挑戦し、変化を生み出す「変革を起こす人」です。これらは当社にとって全社員が共有する根幹の価値観であり、志と誠実さ、そして変化を楽しむ力を備えた人とともに、次の時代の街づくりに挑んでいます。
変化が激しい現代、事業を取り巻く環境は大きく変化しました。これからは単に専門性を持つだけでなく、多様な文化や価値観を前提としたグローバルな視点を持ち、状況に応じて自らの考えや行動を柔軟に変えられる適応力が不可欠になっています。また、デジタルをツールとしてではなく、新たな価値や収益を生み出す基盤として捉え、既存のビジネスモデルや業務プロセスを更新していく「発想力」も重要です。
Q.海外のマネージメントで大切な点は。
「違いを前提に関わる姿勢」が最も重要です。私がアメリカへ初めて赴任した際は、日本人駐在員はわずか数名でほとんどが現地社員という環境でした。そこで強く実感したのは、日本的な「行間を読む」「言わなくても伝わるだろう」という感覚はグローバルな職場では通用しないということです。感謝や気遣いの表現一つをとっても受け取り方は文化によって異なり、意図が正確に伝わらないことがあります。だからこそ「こう思っているはず」と決めつけるのではなく、丁寧に言葉を尽くし、対話を重ねることが欠かせないと感じます。 宗教観や価値観に関わる領域では、より一層の配慮と学ぶ姿勢が求められます。これまでの経験を通して大切にしていること、それは、誠実に公正さをもって「相手を理解しようとする姿勢」と「多様性を力に変える人間力」です。多文化環境でのマネジメントは人と人が学び合い、成長し合う営みでもあると感じます。その積み重ねこそが、グローバルな街づくりを支える基盤になっているのです。
Q.日本と世界の都市とでは、街づくりにおいて違いはありますか。
日本と世界の都市の街づくりの違いを考えるとき、思い浮かぶのは、東京丸の内とシンガポールの共通点です。当社は、シンガポールを代表するローカルデベロッパーと20年以上にわたって協業を続けてきました。シンガポールの大規模開発を目にすると「とても丸の内的だ」と感じることが少なくありません。国家全体が一つの都市経営体のように機能しており、日本と通じる思想もあります。東南アジアにはこれからの時代の街づくりをともに学び、育てていく余地が大きいと感じています。「街づくり」とは、文化と価値観を次世代へ手渡す次代への橋渡しと言っても過言ではないでしょう。
欧米では、オフィス、住宅、商業施設などの分野ごとに事業が細かく分かれ、特定のアセットに特化した開発が多く見受けられます。一方で日本では民間企業が中心となり、エリア全体を見渡しながら複数の機能を組み合わせて街を育てていく文化があります。当社も、オフィスだけでなく、住宅、商業、物流、サービスまでを一体で手がけ、企画から運営まで長期的に関わることで、人の暮らしや営みを総合的に支える街づくりを行ってきました。街とは建物の集合体ではなく、人が学び、働き、出会い、成長していく場であり、その価値をどう育てるかが私たちの使命だと考えています。
Q.「グローバル人材」に必須のスキルは何でしょうか。
一言で表すなら「多様性を理解しつなぐ力」だと思います。具体的には、異なる文化や価値観、宗教や常識を持つ人々と出会ったときに違いを壁にするのではなく受け止め、互いの力を結びつけて新しい価値を生み出していく力です。そこには多様性を尊重する姿勢や変化に対応するしなやかさ、相手を認め違いを受け入れる心が欠かせません。これらは単なる「ビジネススキル」ではなく、人としての在り方であり本質に近いものだと感じています。
知識や語学力はもちろん重要ですが、それ以上に大切なのは、他者と向き合い、対話し、学び続ける姿勢です。実際、時代ごとに「グローバル人材」「DX人材」など呼び方は変わってきましたが、本質は長い歴史の中でほとんど変わっていないのではないでしょうか。志を持ち学び続け、誠実に人と向き合い組織や社会の中で変革を起こしていくという人間力こそが、どの時代においても世界で活躍する人材の土台になってきました。だからこそ企業としての人材育成も、学校教育と同じく「正解を教える場」ではなく「違いの中で考え続ける力を育てる場」であるべきだと考えています。その積み重ねが、これからのグローバル社会を生き抜く力につながっていくと疑いません。
Q.海外に暮らすご家族向けにメッセージをお願いします。
私はどの国で暮らしても、その経験には必ず「意味がある」と感じています。中でもシンガポールは、宗教や人種、文化やビジネスのすべてが交差する世界有数のハブであり、非常に恵まれた環境です。こうした環境で幼少期を過ごすことは、多様性を受け入れ変化に向き合うといった、これからの時代に求められる素養が生活の中で自然に育まれる貴重な経験だと思います。限られた駐在期間だからこそ「ここでしかできない経験」を大切にしてほしいと思います。 「アジア」という言葉で一括りにせず、できるだけ多くの国・エリアに行き、人と話し、街を歩き「同じアジアでもこんなに違うのか」と体感することで、将来に向けた視点づくりをすることをおすすめします。








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